研究概要 |
1.トルナヴァ資料体より16世紀市民層の遺言書のプロトタイプを確定した。この資料体では遺言書は明確に二分割される。口上部分と遺産分与の指示の部分である。後者は比較的長文の場合もあるが、箇条書きが主でテクスト構造の考察には適さないので、口上の部分を扱った。テクストを構成する絶対不可欠の要素は1)日付、2)作成者の名乗り、3)作成の宣言、4)遺言書執行者ないしは(保)証人の指定と依頼であり、これに準ずるものとして、冒頭におかれる5)神への呼びかけ、6)法的行為行能力の確認、があり、約三分の一の文章では遺言書作成の宣言から、7)遺言書作成の目的や理由、を別の構成要素として分離することができる。さらに殆どの遺言書における最初の指示は、8)遺言書の死後の身体と魂の処置、である。以上から構成要素としては5),1),2),3),6),4)としこれに8)を加えて全体86語+19語の長さのテクストを再構成した。 2.現在非ドイツ語圏のトルナヴァは言語地勢上は上部ドイツであった。これと対比する資料を中部ドイツと北ドイツから収集する計画のうち、今回はブラウンシュヴァイク市の市立文書館で北ドイツ資料の収集を行った。ここでは遺言書は「史料」としてよく調査研究されており、その成果が刊行されている。しかし史料研究の場合テクストそのものは直接の対象にはなっていない。マイクロフイルムでテクストを収集した。ここでは都市法の違いが、遺言書のテクスト構造の違いに影響することを認識した。遺言書がどのように作成され、確定または公に保証されるかは各都市によってそれぞれ異なっている。ブラウンシュヴァイクの場合作成者の死後、改変の可能性がなくなってから、市の記録簿に改めて記載されて確定する。様々な作成経緯はテクスト構造の違いを結果する。遺言書作成者のコミュニケーション上の意図の実現にとって、本質的なテクスト構造要素は何かを追求する。
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