本年度においては、琉球方言における言語変化の動向を動態的に把握するため、ある程度データの収集されている沖縄本島ではなく、このような観点からの報告の少ない宮古諸島方言にしぼりこみ、主として次に2点において標記研究を遂行した。 1)臨地調査による宮古諸島の言語的ヴァリエーションの研究 2)通信調査による宮古諸島の言語意識の研究 1)においては、近年見られる言語変化のヴァリエーションの考察の前提として、過去の言語変化の結果として現存している宮古諸島諸方言の基礎的調査を、宮古本島北部の狩俣方言・池間方言について行なった。調査に際しては、琉球方言に専門的な知見を有する3名の研究者を調査補助者として依頼した。この結果、宮古の中心地である平良方言で現在起こっているイ母音化が、池間方言では既に高年層に起こっていることを確認した。これにより、平良で起こっているイ母音化は必ずしも新たに生じた言語外的要因によるものではないことが明らかになった。狩俣方言については、平良方言的な中舌母音から大神方言的な後ろ寄りの中舌母音に移行する過渡的名性格を持つことを明らかにした。 2)においては、宮古の中心地平良において活躍層の男性を対象に、宮古方言・沖縄方言・本土方言に関するイメージ調査を1月〜2月に通信調査の形で行った。今後の宮古方言の変化の方向を社会心理学的な観点から明らかにする趣旨の調査であり、現在データを解析中である。
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