1 本研究の目的は、パラグラフのような大きな言語単位を発話する際に、それがひとつのまとまりであることを示すために(即ち、発話の分節化のために)役立っていると考えられる韻律特徴について、音響学的に解明することである。 2 研究実施計画に従って、音声データの収録(平8/5-6月)、音響パラメータの計測(平8/7-10月)、分析および解釈・検討(平8/11月〜)を行った。特に発話の時間的特徴(ポ-ズ長と発話速度)に焦点をあてて解析を行い。さらに、分節化のためにポ-ズ(無音区間)を挿入した場合に、音声の基本周波数(F0)と発話速度がどのように影響されるかについても検討を行った。 3 本研究より、以下の知見が得られた。 (1)いくつかのパラグラフから成るテキストを発話した場合、(a)ポ-ズについては、パラグラフ間のポ-ズもパラグラフ内(文間)のポ-ズも、テキストの後になるほど長くなる傾向があり、(b)発話速度については、テキストの後になるほど遅くなる傾向があることが明らかにされた。 (2)さらに、ポ-ズ挿入に伴う他の韻律特徴の変化について調べるために、文中にポ-ズを入れて発話した場合と入れないで発話した場合を比較すると、(a)ポ-ズを入れて発話した場合、ポ-ズの前ではモ-ラ長が長くなる(発話速度が遅くなる)が後では反対にモ-ラ長が短かくなる(発話速度が速くなる)、(b)ポ-ズを入れて発話した場合、ポ-ズの前ではF0が低くなるが、後では反対にF0が高くなる、(c)モ-ラ長(発話速度)とF0とでは、ポ-ズ挿入に伴う変化の及ぶ範囲(時間区間)が特徴的に異なる、すなわち、モ-ラ長の変化はポ-ズの前後1〜2モ-ラという短い区間に局限されているが、F0の変化はポ-ズ前3〜4モ-ラ、ポ-ズ後5〜6モ-ラというように比較的長い区間にわたって実現される、等の特徴が明らかにされた。 4 今後は、さらに詳細かつ包括的な解析を行い、パラグラフ等のマクロレベルの発話分節化に関する定式化を試みたい。
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