ロシア科学アカデミー東方学研究所サンクトペテルブルグ支所の保管するウイグル文字表記漢文断片中の8葉についての研究は既に平成7年に提出した。そして4葉については本年発表した。ロシアには、この種の断片がさらに2葉保管されている。この2葉の内容同定はむずかしく、現在の段階ではいかなる仏典に所属するものかわからない。しかし、ウイグル文字表記の形式から判断した結果、およそ80%の語については対応漢字が同定できた。また、ベルリン所蔵のウイグル文献中には、30ページに及ぶ冊子本の形態で、やはりウイグル文字で書かれた長行の漢文写本が存在する。幸いなことにベルリン科学アカデミーの厚意により、この文献の複製写真を入手することができ、その研究も許可された。内容は複数の仏典が結合された構成からなり、同定は困難を極める。現在のところ、その一部についてのみ「入阿毘達磨論」であることが判明した。この部分のウイグル文字表記と漢字との同定も終わった。本年度同定できた漢字の漢語音はやはり、唐代未から宋初にかけての時代の漢語西北方言を基礎にして作られたいわゆる「ウイグル漢字音」に所属するものである。これらウイグル文字表記形式と漢字との対応リストを作り、「ウイグル漢字音」体系の再構の準備を進めている。 来年度は、ベルリン所蔵の写本の全内容の同定と、ウイグル文字表記形式と漢字の完全な同定を終え、「ウイグル漢字音」についての総合的な記述をおこないたい。
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