まず、研究課題名の説明と研究成果の概要とを総括しで述べる。19世紀(17世紀末〜20世紀初頭)以来のヨーロッパの世界的な優位は合理的な精神のたまものである。今日の拡大ヨーロッパ、ユーラシアの流動性、アジアの明暗の直接的な原点は19世紀にある。情報伝達の流れとは村山七郎による漂流民ゴンザ研究からプロテスタントの教育学者のコメニウスやハンガリー語文献へと進めることを意図していたが、3年間の研究はこれをより一般論に振り、新たな理解を得た。北方ユーラシアのあらゆる民族の知性には〈絶えざる知的な渇き〉と〈個性と民族への目覚め〉とがあった。言語改革とは近代的な言語規範の確立の意味であるが、これはハンガリーでは19世妃前半に知性のまとまりとして確立され、アルタイ地域では温度差があったが、その胎動期にあった。 新たなる知見。まず、枠として、〈人・物の動き〉から北方ユーラシアの3言語連合を設定した:ドナウ河(ハプスブルク帝国、民族主義、言語接触):ユーラシア(ヴォルガ〜地中海、ロシア帝国、オスマン帝国、東西交渉):中国北方(モシゴル高原、興安嶺と赤峰、大清帝国、満蒙漢の知識人)。この結果、20世紀のアルタイ言語学(村山論.1997)、中国北方論(1998)、トルコ語(1999)・モンゴル仏教(1999)・満蒙語(1999)各文献、アルタイ言語学概論(1999。印刷中)をまとめた。次に、具体論として、幕府天文方の景保「亜欧語鼎」を調べ、これが近代の北方ユーラシアの東西交渉を理解する鍵となるばかりか、13世紀以来の各種〈対訳語彙集〉とを考察する鍵となることを新たに確認した。東モンゴル関係では、清末のケシンゲ「蒙文虚字指要」を自然な言語感覚による〈膠着語文法〉であると確認し、さらに、野村正良の東京帝大卒業論文(ハラチン・モンゴル語研究)や東大学位論文をアルタイ語学の最高水準にあると確認した。
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