本研究はドイツにおける訴訟率の規定要因を解明することを目的としておこなわれたが、2年間の研究作業を通じてえられた成果は以下の通りである。 1 ドイツと日本の訴訟率を比較した場合、通常民事事件では独 17.8:日本1、労働事件では独 456:日本1、行政事件では独 265:日本1、の割合となっており、ドイツの訴訟率は際だって高い(なお、ドイツの訴訟率は他の西欧諸国と比較しても高い水準にある)。 2 ドイツにおける高水準の訴訟率を導いている要因としては、従来、法文化・法意識的要因と制度的要因が指摘されてきた。このうち、法文化・法意識的要因については、一般的にドイツでは紛争処理の方法として訴訟に対する抵抗感が少ないというイメージはあるものの、他国との比較に関する経験的・実証的なデータは確認されなかった。これに対して、ドイツの法制度が、訴訟利用のコストを低い水準に抑制することによって、人々の訴訟利用を誘導する効果をもっていることは明確に確認された。 3 さらに、本研究を通じて、ドイツでは、消費者団体・借家人団体・社会福祉団体・環境保護団体・地域の市民団体・労働組合などの自発的結社(アソシエーション)や社会運動組織、あるいはそれらの間のネットワークなどが、個人の権利主張や法制度利用を援助していることが確認された。社会の制度としての組織が人々の訴訟行動に与える影響を明らかにしえた点が、本研究のもっとも重要な成果である。 4 以上の知見をふまえて、<法制度的要因と組織的要因が、法文化・法意識的要因とは独立に、ドイツの高訴訟率の原因となっている>というのが本研究の結論である。
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