本研究は、ドイツにおける訴訟率の規定要因を解明することを目的として行われたが、2年間の研究を通じてえられた成果は以下の通りである。 第1に、ドイツと日本の訴訟率を比較した場合、通常民事事件ではドイツ18:日本1、労働事件ではドイツ456:日本1、行政事件ではドイツ266:日本1と、いずれにおいてもドイツが際だって高い。 第2に、ドイツにおける高水準の訴訟率を導いている要因としては、従来、法文化・法意識的要因と制度的要因が指摘されてきた。本研究を通じて、ドイツの法制度が、訴訟利用のコストを低い水準に抑制することによって、人々の訴訟利用を誘導する効果をもっていることが明確に確認された。これに対して、法文化・法意識的要因については、一般的にドイツでは紛争処理の方法として訴訟に対する抵抗感が少ないというイメージはあるものの他国との比較に関する経験的・実証的なデータは確認されなかった。 第3に、本研究を通じて、ドイツでは、消費者団体・借家人団体・社会福祉団体・環境保護団体・地域の市民団体・労働組合などの自発的結社(アソシエーション)や社会運動組織、あるいはそれらの間のネットワークなどが、個人の権利主張や法制度利用を援助していることが確認された。社会の制度としての組織が人々の訴訟行動に与える影響を明らかにしえた点が、本研究のもっとも重要な成果である。 第4に、以上の知見をふまえて、法制度的要因と組織的要因が、法文化・法意識的要因とは独立に、ドイツの高訴訟率を招いているというのが、本研究の結論である。
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