本年度は、本調査実施のための理論的整備を行った。プロフェッションとしての弁護士業に携わる女性たちは、現実にどのような問題を抱え、それをどのように理解し、あるいは処理しているのかということは、女性弁護士たちをとりまく社会的・歴史的文脈とのかかわりを見ることでもあるからである。今年度は、わが国とは対照的な発展をとげているアメリカ、ドイツ、イギリス、オーストラリアなどにおける女性弁護士の活動の現状及び彼女たちを支えてきた理論的バックグラウンドについて、資料の整理とデータ入力を行った。その結果、いずれの国についても女性弁護士の現状は、弁護士業のfeminizationとまでいわれている飛躍的な数的拡大と、その一方で、女性そのものがおかれている歴史的な制約やセクシズムの中で、ピンク・ゲット-化ともいうべき活動領域の限定やグラス・シーリングと呼ばれる活躍の頭打ちに遭遇していることがわかった。このような状況の打開のために、それらの国々では、フェミニズムの理論が法および法実務に援用される。ただし、フェミニズムのなかも多様化しているので、理論構成も学派によって非常に異なっており、その弁護士業あるいは裁判過程への適用もさまざまな現れ方をとっている。また、個々の国々の特殊性に対応して、女性弁護士の意識や実態に特色がみられる。 以上の諸外国の実情を背景として見るとき、日本の女性弁護士の現状はfeminizationにもフェミニズム理論にも程遠いものであることがわかる。しかし他方では、このような国際環境や、雇用機会均等法や別性をめぐる民法改正論議、あるいは単発的とはいえ性差別訴訟といったあらたな法の問題が、わが国の女性弁護士にインパクトを与えざるを得ない状況がある。次年度は、これらの諸点を中心として質問票を完成し、本調査を実施する予定になっている。
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