地方分権推進委員会勧告は、機関委任事務制度の廃止をはじめとして、国の自治体への関与を緩和する改革論を提言した。しかし、いまだに多くの権限が国に留保され、国の強い関与を残すこととなった。かえって、国と自治体との「公行政協働システム」は、ますます強固なものとなった。一方、行政改革会議を中心とする日本国家構造改革論は中央省庁等改革基本法として具体化され、内閣機能の強化および省庁再編が具体の政治日程にのぼることになった。そこで展開された「スリム国家」論の中心論点は、エージェンシー論やアウトソーシング論による国家行政機能の民間化であり、行政の効率化であった。「スリムな国家」論は自治体に対しても「スリムな自治体」を要求することとなり、自治体改革が緊急の課題となった。両者に共通する行政改革理念は、「国家観の転換」であり、「行政責任の構造転換」である。かかる改革理念を現実化するためのシステムが、本研究のテーマであった「公私混合行政協働システム」であった。本来、行政の効率化のための手段であるはずたった「行政の民間化」論が、行政の組織と活動の「市場化」を促し、「公私混合行政協働システム」の構築を不可欠とすることになったのである。そこでの「行政の民間化」論、「行政の市場化」論あるいは「行政の効率性」論には、反法治国家的、反民主主義的あるいは反福祉国家的性格すなわち、反憲法的性格を帯びる危険があることが明らかにされた。今後、このような「公私混合行政協働システム」の構築がますます進めば、「行政法改革」が迫られる問題も生じよう。「行政の民間化」、「行政の効率性」といった問題は、たんなる行政経営の問題としてではなく、われわれの人権および民主主義の問題として、すなわち憲法学的あるいは法律学的問題として検討する課題である。
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