ドイツにおいては連邦とラント、ラント内の地方自治体それぞれのレベルで、補完性を考えることが可能である。特に連邦とラントとの関係においては、競合的権限を規定した基本法第72条2項、74条等を手掛かりとして補完性原理が妥当する。 欧州共同体においても、その明文の規定にあるように、共同体と構成国とが競合的権限を有する場合に、補完性ということが問題とされるのである。 連邦制を採用するドイツ、主権国家により構成される欧州共同体は、それぞれ我が国の権限の配分状況あるいは配分原理とは異なり、一定の権限をいずれかのレベルに明定した上で、競合的な分野における補完性が機能することとなる。 連邦制を採用しない我が国においては、従来、国・都道府県・市町村といった各レベルの「機能分担」的指向に基づき、行政活動あるいは事務配分がなされてきた。その意味でいえば、多くの分野において我が国では、各行政主体の権限が競合するものであったともいえよう。 地方分権推進委員会の諸勧告および地方分権推進委員会の指導原理として挙げられる「役割分担原則」は、行政責任の明確化を図るために、国・都道府県・市町村といった各レベルでの行政の完結性を求めていると考えられることもできる。ただし、国より都道府県、都道府県より市町村といった住民に身近な自治体での行政を指向する点が、役割分担原則において見て取れる。これこそ、補完性原理のそもそも意図するところであると思われる。さらに、事務の再配分が行われた後にも役割分担原則に基づき、国の大綱的立法により、地方自治体の意向が尊重される局面が考えられ、そこでも補完性原理的発想を読みとることが可能であろう。
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