1サービス契約法の研究は、現実の取引から生じる具体的な問題を掘り下げることによって、内在する本質的問題に迫る各論からのアプローチと、債権総論又は契約総論のレベルでの規範を再検討することによって、現実の諸問題に光を当てる総論からのアプローチがある。本年度は、主として、前者のアプローチにより、松本が、金融サービス・電気通信利用サービスを中心に研究を行い、「融資金の使途先に関する融資者の責任」「ニュービジネスとその規制」(岩波講座所収)」等の研究発表をし、中田が、継続的サービス契約を素材として、「継続的役務提供契約の問題点(上)(中)(下)」の研究発表をした。いずれも各人の従来の研究の成果に、今年度の補助による研究成果を加えて完成したものであり、かつ、後者のアプローチも意識したものである。 2上記各研究をするにあたり、サービス取引の諸問題に取り組む実務家かからのヒアリング、国内外の文献を中心とする資料収集を行い、ほぼ月に1度の割合で研究組織構成員間での意見交換をした。 3以上の結果、サービス契約法の問題を解明するためには、上記の「各論からのアプローチ」により、(1)サービスを提供する事業者の義務、(2)その提供を受ける受給者の意思及び期待、(3)両者の間に存在する情報ないし不確実性の均衡について、現状の正確な認識に基づいて、民法典の体系を前提とする法的評価及び問題解決のための法律構成を試みることがまず必要であることが確認された(上記研究発表はその試みである)。同時に、近代法的な契約法自体を再検討することも必要であり(ユニドロワ国際商事契約原則及びヨーロッパ契約法原則はその試みとも解しうる)、その際、上記の「総論からのアプローチ」も求められることも確認された。 4来年度は、2で得た情報の分析をしつつ、3で述べた課題に引き続き取り組みたい。
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