証券市場に登場する一般投資者たちの多くは効率的資本市場仮説が前提にするような強靭な合理性を有しない、いわゆるノイズトレーダーと考えられる。本研究では、かようなソフィストケートされていない一般投資家保護のために最も重要な規制分野と思われる、証券投資勧誘規制の在り方を、投資者の合理性の限界に焦点を合わせて検討した。投資決定過程で一般投資者の投資判断にバイアスを与えそうな合理性の限界として、(1)安易な因果関係の発見すなわち外挿法の多用、(2)利用可能性効果による確率判断、(3)代表性効果、(4)フレーミング効果、(5)現状維持効果とプロスペクト理論、(5)信頼構築後の認知的不協和問題の六つを取り上げ、これらの効果によって一般投資者が投資判断を歪曲される例をわが国および米国の投資勧誘事件から析出した。さらに、断定的判断の提供の禁止、損失保証の禁止、説明義務、適合性原則といった従来の投資勧誘規制が投資判断の歪曲防止にどのような形で対処できるかを吟味した。それらを通じて、投資勧誘によって投資者のリスク認知が様々な形で影響を受け、自己責任の前提となる決定者の合理性がしばしば綻びることを明らかにし、そのため投資勧誘者にいわば勧誘する者の責任として、上記行為原則の遵守が期待されるべきであることを明らかにした。その分析過程で、これらの原則による介入がいかなる場合に妥当であるかについての基準作成のための手がかりを得た。特に、投資勧誘者の信頼醸成と考えられ行為を基礎に、投資者保護のための高度の行為義務を課すことの必要性を明らかにし、かような行為義務が損害賠償の基礎におかれるべき点を最安価回避者原則に基づいて説明した。
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