研究概要 |
民事訴訟において,何が当事者間に真に争いのある事実であるかを解明するうえで,原告にはどの程度具体的な事実の主張が要求され,被告は原告の事実主張に対して具体的事実の陳述をしないで単にこれを否認すること(単純否認)が許されてよいかという問題がある。具体的事実陳述が要求されるならば,当事者の主張や否認が必要な具体性を欠く場合に,どのような法的効果が生ずるのかという問題が本質的に重要性をもつ。そして,証明責任を負う当事者が訴訟に必要な情報から隔絶されている場合には,情報を有する相手方に,一定の要件のもとに当事者の事実陳述や証拠提出に協力すべき義務を負わせる必要が生ずる。他方,相手方は当事者を勝訴させるために事実や証拠を提出すべき義務をもともと負っていない。そこから,いかなる根拠により,いかなる範囲で,証明責任を負わない相手方に当事者の主張や証拠提出に協力すべき義務が生ずるかが重要な問題となる。 本研究はこの問題をドイツ法と日本の判例の発展を視野に入れながら検討するものである。まず、ドイツにいて判例上発展した,証明責任を負わない訴訟当事者の具体的事実陳述=証拠提出義務(Substantiierungspflicht)について,判例を跡付ける作業を行い,学説を検討した。ついで,日本の環境訴訟や税務訴訟に見られる,証明責任を負わない当事者に事実上課せられている事実陳述義務の性質を検討した。そして,結論的には,日本の民事訴訟においても,(1)証明責任を負う当事者が事象経過の外におり,(2)事実を自ら解明する可能性を有していないが,(3)それに対して相手方は難なく必要な解明を与えることができ,かつ,(4)具体的事件の事情から見て解明を相手方に期待することができる,という4つの要件を具備する場合,相手方は訴訟上の信義則に基づき具体的事実を陳述し,これに関して証拠を提出すべき義務を負うことを主張した。
|