(1)環境汚染の現状:今日の環境汚染(土壌汚染)は産業汚染と生活汚染の重複であり、生態系の崩壊に直結する。廃棄物処理問題が典型であろう。この問題が我われに提示しているのは循環経済社会システムへの転換である。 (2)環境汚染のメカニズム:今までの公害問題は、企業の生産性向上に基づく現象であった。そこには、被害者対加害者という構図が存在した。しかし、今日では経済活動の末端過程で生じ、不可避な問題としてあり、責任の所在が不明確で分散している。 (3)差止めの法制度:差止めは公害事件に雌雄を決する機能を担っていた。その差止めは行政訴訟法上の、民事法上の、民事保全法上の差止めである。前二者の差止めは、執行されれば決定的な効力を有するが、廃棄物処理問題などの場合、基本的な解決を提起できない。後者の差止めは、本案訴訟の決定までの効力しかなく、根本的な解決は前二者に依拠する。 (4)差止めの法理論:差止めではないが、公害規制は原因物質の特定と排出基準の設定により、違反には改善勧告・命令を認める。しかし、行政による履行を確保する装置がない。行政訴訟法上の差止めは行政行為の執行(廃棄物処理場建設)停止を問題にし、行政訴訟法25条が実質的に差止めの機能を消失させる。民事法上の差止めは諸々な根拠に基づいて主張されるが、一長一短で決定的な説がない。 (5)差止めの法的問題:たとえば、環境汚染が発生すれば、直ちに動き出すのが行政規制であろう。しかし、化学物質規制に関する法律は総合的に運用されていない。換言すれば、差止め基準が一つの法政策目的をもって定立されていない。このような状況下においては、差止めは法理論的にも・法実践的にもうまく機能していない。そうだとすれば、このような法的閉塞状況を抜け出す新たな理論枠組みが必要となろう。
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