本年度は、1994年の共和党による議会革命から1998年の選挙での敗北に至る過程において、保守の議題設定とそれに対する有権者の反応に焦点を当てた。この4年間に、共和党保守と有権者との間に生じてきた乖離を時間的に追って、こうした国内政治における支持基盤の揺れが国内政策に及ぼす影響、またその外交政策への波及効果に関しての分析を行った。また、研究の最終年度にあたるため、昨年度までの調査結果の取りまとめを行った。 議会の保守革命が短期間に脆弱化した最大の原因は、選挙における保守の基盤と、日常的な保守の基盤に見られるずれが、議会保守派の行動を一般有権者からかけ離れたものとして認識させたことにある。そして、短期的には保守の勝利と見られた極端な保守の議題が、保守とは何であるかというアイデンティティの危機をすら生じさせる原因となった。前年までの調査で見てきたように、共和党保守は社会的保守と財政的保守に大別できる。社会的保守が特に顕著な乖離の例を示しているが、これは近年のアメリカ経済の拡大傾向が、財政的保守の極端さを目立たなくしているせいでもある。もっとも、財政的保守が数による妥協も可能であるのに対し、社会的保守の場合は、妥協の余地が狭いことが、乖離の状況を顕著にしている特徴でもある。 外交においては、保守の議題と有権者の意思の逆行よりも、むしろ、国際世論の批判が国内での批判を促しているのが現状である。人工妊娠中絶を理由にアジア経済危機へのIMF資金増額が否決された件が、アメリカ外交が国益と保守の議題との間のバランスを失っている例としてあげられる。アメリカ社会全体の保守化傾向の中で、保守派が自らの存在を極端な保守の議題で正当化していく必要性を感じる一方、そうした方法が内政のみでなく外交に及ぼす損害が徐々に明らかになっている。
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