本研究の目的は、60年代以降の韓国における地域社会の変容を「都市型社会」の成立という視角から検討し、主として、日本との対比で韓国における住民自治の可能性を探ることにあったが、本年度は、その準備作業として、(1)戦後日本の地域社会の変容と自治体改革の経験の整理、(2)韓国の地方自治制度の変遷、(3)韓国の社会変動に関連する統計の整理などをおこなった。 そうした作業の結果、本年度において確認しえたことは以下の通りである。 まず、農業人口比率を中心とする松下圭一氏の「都市型社会」についての基準に即して言うと、韓国社会はおよそ60年代後半以降、「都市型社会」への「移行期」に入り80年代後半にいたってその「成立」をみた、という点を確認しえた。1991年における地方議会選挙の30年ぶりの再開、及び95年の地方団体長選挙の実施は、住民自治をめぐるそうした基礎条件を反映したものといえる。 他方で、本年度の研究を通して、韓国の住民自体をめぐるマイナス要因も浮かびあがった。自治体によるチェック機能を欠いたまま進展した極端な中央政府主導の工業化は、自治体の中央依存的な体質と、都市と農村、首都圏と地方圏の間の不均衡を想像以上に拡大していた。さらに、これらの不均衡が、一般に指摘される、特定地域に偏った開発方式だけではなく、巨大企業内部の各機能の立地選択と都市の階層構造との相互作用にも関係していることが明らかになった。 次年度では、以上の成果を前提に、いくつかの都市を具体的に韓国の地域構造の変化に対応する住民意識の変化を探り、研究論文としてまとめたい。
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