博愛的な工場経営者から社会改革家へと自己変革を遂げたオウエンは、個人主義的で利己的な自由競争の蔓延している市場経済社会を肯定するポリティカル・エコノミーを批判し、人間どうしが相互に助け合う公正で平等な社会を肯定するモラル・エコノミーに基礎づけられた協同社会の創設を提案し、実践していった。アメリカのニューハ-モニ-での協同村建設の実験は2年ほどしか続くことがなかったとはいえ、かれの協同社会建設という信念は揺らぐことなく、かれはいっそうニュー・モラル・ワールドの重要性を確認し、その社会形成を教育・啓蒙活動を通じておこなっていく必要性を実感した。 今年度の研究では、1830年代のオウエンの「全国公正労働交換所」の創設とその経緯を分析することにより、オウエンのモラル・エコノミーにおける公正価格と労働証券の位置づけおよびそれらと協同社会との関係を明らかにすることに努めた。公正価格に基づく労働証券の普及をめざすオウエンの「全国公正労働交換所」は、市場経済のもとでチャリティを基盤とした協同の原理を追求するものであったが、市場経済に巻き込まれ、成功することがなかった。しかし、チャリティあるいはボランティアの精神を生かし、金銭的な損得にこだわることがなければ、それは存続する可能性がある。 これからの研究においては、オウエンの1830年代の「全国労働組合大連合」の活動経過と『新道徳世界の書』(1842年)を対象とし、それらの中でモラル・エコノミーおよび協同社会論の内容を深化させていきたい。
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