オウエンは、理想社会の形成をめざして、アメリカのニュー・ハーモニーにおいて協同村を建設するようにつとめたが、しかしその試みは1825年から2年間ほどしかつづくことなく失敗した。その失敗原因は、経済運営のまずさとニュー・モラル・ワールドへ向けて住民たちの心を一致させられなかったことにあり、市場経済社会のなかに協同社会という小世界を形成するユートピアの難しさのなかにあるだろう。その失敗にもかかわらず、かれは、個人主義的で利己的な自由競争つまり市場原理の悪弊を糺し、お互いがお互いを「思いやる心 charity」を基礎とした協同社会形成の必要性とその原理の正当性をそこで再確認し、それらのことを教育・啓蒙活動を通じておこなっていく決心をした。 本年度の研究では、かれのモラル・エコノミーが集大成されたと考えられる『新道徳世界の書』(1842年)を念頭におきながら、それを実践していたニュー・ハーモニーの協同村建設を中心とし、そのような実践を成し遂げるにいたったオウエンの思想とその形成過程を『オウエンのユートピアと共生社会』としてまとめた。しかしながら、この平成8〜10年度の研究目的であった1825-1842年のオウエンのモラル・エコノミーの解明の後半部分、つまり1834年から1842年までの研究は残念ながら、時間が足りなかったためにおこなうことができなかった。そのかわり、本研究と関連する『オウエンのユートピアと共生社会』という著作を出版するという大きな成果を獲得することができた。 本研究を通じて、筆者はオウエンのモラル・エコノミーの重要性を認識し、個人主義的になりがちな市場経済においてそれを何らかの形で生かさなければならないという知見をえた。それは、本研究の成果が示しているように、ユートピアであるかもしれないが、ユートピアなくしてはより良き社会への希求つまり社会改革への欲求もなくなる。
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