IMF協定上アメリカ合衆国は、国際収支の決済をすべて、唯一の国際通貨であったところの自国通貨ドルによっておこなうことができた。ドルによる支払いを受けたIMF加盟各国は、そのドルをアメリカ政府に提示し、金に転換した。金兌換は、外国の公的機関保有のドルだけに保証され、各国に引きだされた分だけ、アメリカの金保有量が減少するという仕組みだったからである。1960年代、アメリカは各国に対し、いわゆる「道徳的説得」によって金引き出しの自粛を呼びかけた。しかし、アメリカの国際収支はほとんど毎年のように赤字を継続したため、ドルはますます各国に累積することになった。それはやがてアメリカの金保有量を上まわるようになった。各国は、兌換の不能を危惧し、その正式停止も時間の問題とみなされるようになった。 以上が、ニクソン・ショックすなわちIMF体制の崩壊にいたる事実経過であるが、従来、ドル危機ないし国際通貨危機は主に、アメリカの国際収支危機として論じられてきた。しかしそれは、単なる近因ないし契機にすぎず、基本原因ではない。本研究は、第1に、そうした国際収支危機の背後にあって、国際収支危機を国際収支危機として発現させた真の当体を「購買力平価」とみなし、その運動法則を叙述した上で、第2に、固定されたIMF平価、および、IMF平価に規制されほとんど変動不可能な市場為替相場、これら両者とドル購買力平価の長期的乖離が先の国際収支赤字を必然化するメカニズムを、具体的に解き明かすものである。 ニクソン・ショック以降、今日にいたる変動相場制期が今後の分析対象であるが、この時期についても同様に購買力平価説の適用が可能と考えている。当該時期において、通貨金融当局による市場介入が必然化する理由、および、その予想外の影響(マイナスの効果)、これらの2点を次年度以降の分析課題としたい。
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