研究概要 |
英国の近代経済学は,マーシャル経済学(当時の用法では「正統派」経済学)を中心にして確立されるが、これは当時の大学拡張と道徳哲学者たちの運動と無関係ではない。「マーシャル経済学の形成」ではこれまで利用されることのなかった「マーシャル文書」の判読を通じて、マーシャルの青年期に経験した「グロート・クラブ」内での論争から、しだいに大学教育においても、形而上学や心理学のような教科だけではなく、「人間性の完成の可能性」と経済発展(人的投資に裏付けられた)の関係を訴えはじめる彼の教育活動について明らかにした。初期の評価論から『産業経済学』にかけてのマーシャルの課題は、これまで高等教育の対象外であった中産階級の女性や労働者に対して、いかに英国の産業構造の将来性と労働者の更生との増進を、価格学説の中で展開できるかという説得も、ともなっていた。そして彼の『経済学原理』は、価格学説を中心とした側面だけでなく、オックスブリッジとともに新興の都市大学の受容層にも受け入れられる性格をもっていた。
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