本研究第一年度である本年度は、文献ならびに統計などを資料収集・整理とその第一解析ならびに賃金理論の最近動向についての文献サーベイを目的として研究を行った。資料については、研究代表者のフランス滞在を利用するなどして、フランスならびに欧州連合の公的機関の資料、ならびに当該主題にかかわる文献を収集したうえで、その整理ならびに、検討を行った。また、いわゆる制度の経済学による賃金理論のサーベイを行い、かんなずく近年注目を浴びている進化理論の経済学に焦点を絞って検討を加えた 得られた資料からは、直接賃金の決定機構に関する検討は次年度に回すごととし、企業内福利厚生という形態での賃金形態の比較を行った。フランスに関しては、日本と比較可能な国内統計は整備されておらず、ECが発行している労働費用統計ならびに社会政策関連統計と、フランスにおけるいくつかのモノグラフィックな研究をもとに、検討を加えた。その成果の一部は、平野泰明との共同研究に活用され、96年12月パリの国際学会でで発表された。ただ、この点に関しては、なお記述的研究のレベルにとどまっており、制度機構の詳細な検討、比較を行うための日本、フランスならびにECの統計の加工の新たな方法の開発の必要性が痛感された。 理論面の検討では、現時点では見るべき成果は得られなかった。これは、制度の経済学においても、なお、ミクロとマクロの切断状況が十分に克服されているとはいえないことを示しているのかもしれない。逆に言えば、歴史叙述や制度記述を越えてオペレーショナルな理論装置の構築を目指す本研究の成果が貢献することが大きいことを示唆しているといえるかもしれない。 いずれの点においても、本研究の方法論上の意義を失わせるものではなく、本テーマに関する探求の続行が必要であることを示している。
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