本研究第二年度である本年度は、昨年度に続き資料収集ならびにその整理・解析を継続するとともに、昨年度の課題として検討の必要性が痛感された制度機構の国際比較を可能にする理論装置の検討を意識的に進めた。 その過程で全面に浮かび上がってきたのが、労働の組織編成ならびに企業組織と労働契約との関連に係わる問題構成の中に賃金決定機構を位置づけるというプロブレマティークである。経済学における契約論アプローチは、近年種々の成果が発表されるようになってきている。本研究との関連においては、この契約論アプローチをまず、労働の組織的編成との連関において、法学的な労働契約論を踏まえて検討した。そこにおいて、従属的労働契約関係と市民法的雇用契約関係との二重性と労働契約に内在している不完全性に起因する不確実性に対する対処のあり方によって労働の組織的編成の類型が析出しうることがあきらかになった。その点は一部、進化経済学会九州部会において報告した。 この論点は、労働の組織的編成の諸類型が固有に賃金形態(そしてまた賃金決定制度)と補完的であることから、賃金形態の相違が、記述的にではなく理論的に解明しうることを示唆するものである。そしてまた、賃金形態比較を労働組織を媒介して分析することは、前年度指摘しておいたミクロ制度からマクロ動態への連関の理論的根拠を得たことになる。この点に関する日仏比較への含意は、日本における企業主義的な賃労働関係とフランスにおけるナショナルな、労資妥協に基づくフォード主義的な賃労働関係、それぞれの発展様式に係わる比較制度分析へのオペレーショナルな方法的視座を得られたことである。 次年度の課題はこれまでの定性的な分析を基盤として、定量的な検証を行うことである。
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