本研究は、日本とフランスにおける賃金決定様式の制度的特質をミクロレベル(企業内賃金決定分析)からマクロレベル(団体交渉、最低賃金、政府の賃金政策分析)にいたるまで統一的に解析し、実証データに基づいて検証することによって、経済学における賃金理論の革新に制度ならびに理論の両面から貢献することを目的とした。 日本の賃金決定を取り巻く環境がドラスティックに変化してきており、そのことの理論的分析に関して持つ含意の重要性をも考察に加えた。とくに、失業率の急速な高まりを背景に日本の賃金決定制度が、フランスでいわれている「個人化」の様相を急速に深めている。外見的に収斂現象といいうる事態のもつ組織的制度的内実に関して検討を行った。 日本の賃金の景気感応性の高さは、企業主義的な労働=生産組織ならびに賃労働関係の特質であるが、それ自体、ナショナルなレベルでの制度の中に埋め込まれている。逆にフランスにおいてはナショナルなレベルでのフォード主義的賃労働関係をその変容が、企業組織を規定し、ナショナルな賃金決定とそれの企業における適用という形をとる。あたかも、ベクトルが目本においてはミクロからマクロへ、フランスにおいてはマクロがミクロを規定するといったような様相を呈している。さらに今日では、金融関係が賃労働関係を規定するようになってきており、分析を錯綜させることとなっているが、その金融一賃労働関係の連関においても、日仏のベクトルの働き方は同様である。 本研究の成果は、これらを制度ならびに組織面での両国における整合性とその変容を検討し、比較可能な条件の確定をはかり、それによる視座を確定したうえで、比較分析を行ったものである。 本研究の基礎に位置付く両国における労働の組織的編成や生産システム比較分析に基づく賃金決定方式の分析は、日本における本分野の研究の欠落を埋めることになろう。
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