研究概要 |
消費行動の時系列的な変化に関しては,マクロデータによる消費関数が比較的安定しているのに対して,ミクロの消費関数は正の定数項を持つ近似的な直線であり,かつ時系列的に上昇してきたと指摘されてきており,ライフサイクル仮説にもとづいた説明がなされている. しかし,戦後間もない時期から現在にいたるまでの家計調査にもとづく所得と支出の関係の時系列的な変化には,これまで指摘されてこなかった安定性が認められる.すなわち,1973年を中心とする数年間と1980年の前後を除けば,実質化された所得と消費の関係は驚くほど安定しており,ほとんど完全な直線的関係を示しているのである.これは従来主張されてきた相対所得仮説を正面から否定するものである・そこで,(1)どのようなメカニズムによって家計調査における消費関数が安定的となっているのか,および,(2)一般的な安定性が説明されたとして,なぜ石油危機の時期にのみ特異な変動を示したのか,という二つの点が問題となる. 第二の点に関しては,期待物価上昇率が消費行動に与える影響を論じた舟岡史雄の論文が理論的な根拠を与えるものと考えられるが,舟岡の用いた手法をそのまま現時点までのデータに適用して,通常の分布ラグモデルによる計量分析を行っても,1978年頃の結論を延長した結果を得ることはできない. 今回の研究では,一部分ミクロデータを利用した家計調査データの分析を通じて以上の問題を解明しようとしたものであり,資産の与える効果を適切に評価することによって矛盾が解決される可能性を示している.関連して,家計調査データにもとづく消費関数の時系列的変化を説明するモデルの構築と実証分析も実施した. もうひとつの成果として,経済分析においても最近話題を集めている計算機集約的な統計的推定法として,ブートストラップ法に関する理論的な研究の実施もあげられる.
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