本年度は研究期間の第1年度に当たるので、文献のサーベイ、モデルの構築、データの収集・入力、第一次計算などに重点を置いた。データは、タイムシリーズ・データやクロスセクション・データなど、かなり多量のものが収集でき、計量経済学分析に着手することができた。すなわち、『賃金構造基本統計調査』、『学校基本調査報告書』、『私立学校の財務状況に関する調査報告書』などを使って、1970年代半ばから1990年代半ばまでの女子の学歴別・年齢別賃金や大学・短大の教育投資費用に関するデータを収集し、女子の大学・短大教育の内部収益率の計測をはじめた。さらに、『国勢調査』、『賃金構造基本統計調査』、『学校基本調査報告書』などから得られる、1990/91年の都道府県別クロスセクション・データから、親の所得、学歴、職業的ステイタス、就業状況、さらには進学希望者の高等教育機関へのアクセス度などに関するデータも収集し、個人の属性と大学・短大進学行動との関係を分析している。分析モデルとしては、多項ロジットモデルによる最小自乗法や最尤法推定などを試行している。これらのほかに、シグナリングモデルを使った理論的な考察を行なっている。スペンスのシグナリングモデルは資本市場の完全性を暗黙のうちに仮定していおり、現実は資本市場が不完全な場合がほとんどなので、多くの国に適用したとき説得力が弱くなる。現在開発中の理論モデルでは、資本市場の不完全性を仮定してシグナリング均衡を導出し、学歴シグナルがどのような意味を持つかを解明しようとしている。
|