研究概要 |
本年度の研究は、まず大正期経済システムについて、戦間期に生じた所得分配をめぐる対立(distributive conflicts)の多次元化という問題に対して既存経済システムの上にとられた政策体系の内容と限界を考察することがなされた。戦間期においては、それ以前の地域を単位とする分配対立の加えて、新たに階級(労働者、資本家、地主と小作等)を軸とする対立と産業(農業対工業、軽工業対重化学工業)を軸とする対立が生じた。基本的に、地域対立を軸として、一種の新古典派的秩序の上に成り立っていた大正期経済システムは、この対立の多次元化の問題に対して、階級対立に対して中立、農・非農対立については反農業、重化学工業というかたをとったことを明らかにする。しかしながら、この政策体系(ポリシィ・ミックス)は、主として金融システムの脆弱性のゆえに在来産業のクレジット・クランチをもたらし、失敗することとなったと考えられる。 以上の議論は、研究業績の題2論文にとりまとめられている。また、金融システムの脆弱性については、"Financial System Building in Meiji Japan"(mimeo,Nov.1997)について、詳しい検討がなされている。 第二に、高度成長期における経済システムについては、研究業績の第1論文が作成された。ここではまず、高度成長期システムを(i)系列・メインバンクのネットワークにかかわるシステム、(ii)業界団体・原局省庁体制のプル-ラリズムにかかわるシステムおよび(iii)日本型企業(雇用)システムからなるものとしてとらえ、銀行に対するモニタリングの問題を軸に、この機能の仕方とシステムの長期短所を分析している。特に1980年代後半以降のバブル発生時に、系列・メインバンク・システムに汲み込まれた銀行業が、プル-ラリズムの一環としての産業としての利害を主張しつつどのように作動したかが分析の焦点とされている。
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