近年の日本的経済システムに対する制度的分析は基本的に情報効率性の概念を中心としたものであった。すなわち、系列やメインバンクがいかにして情報のエージェンシー・コストを引き下げるか、政策金融システムがどのようにしてpicking winner (looser)を行うか、日本型雇用がいかにして人々の協業へのインセンティヴを高めるか等。これに対して本研究は、所得分配をめぐる民間と政府との接点に注目し、分配の公正が何故達成されたか、分配にかかわる政府民間の接点のあり方が、経済社会の安定的成長にいかにかかわっているかを分析した。大正期経済システムの逢着した諸困難と高度成長期経済システムの成功とは、単なる情報面での効率性だけでなく、分配面の接点が適不適が大きくかかわっていることを示すことができた。すなわち、戦間期においては、分配をめぐる民間部門内の争いが従来の地域間の争いに加えて階級間、産業間の争いが深まり、三層の対立が生じ、これが政策面での手詰まりをもたらし、昭和恐慌の悪化につながった。これに対し、戦後ではおよそ1950年代半ばをさかいに、分配をめぐる政府民間のインターフェイスが産業利害にかかわるものに統一され、このシステムが日本型雇用制度、系列・メインバンク制度の機能とあいまって、戦後日本における効率的かつ安定的な経済運営を可能ならしめたと考えられる。
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