第1に、金融制度改革について研究した。東欧諸国は1980年代末から90年代初めにかけて相次いでモノ・バンキング制度から2層制の銀行制度(中央銀行と商業・投資銀行の分離)への移行を行った。ハンガリー、ポーランド、チェコなどの中欧諸国は戦前からの伝統および1960年代からの改革の努力がものをいい、西側諸国と同様の金融制度がすみやかに定着しつつあるが、ブルガリアやル-マニアなど南東欧諸国ではこの改革は容易ではない。 第2に、各国における国営企業の民営化の実状について研究した。ハンガリーのように外国資本の積極的導入により株式会社化を進めている国もあれば、チェコのようにヴァウチャー方式を通じて国民の株主化をはかっている国もあり、国によってさまざまなやり方で実施されているが、この点はひきつづき研究する必要がある。 第3に、EUならびにIMF、世界銀行などからの支援の実態について研究した。金融的支援のほかに、市場経済における銀行経営や民営化のノウハウ、人材育成などの面での支援の実態がある程度明らかになった。 第4に、旧ユ-ゴスラヴィアで、独自の自主管理社会主義の体制のもとで早くも1960年代から西側に類似した金融制度の導入を模索しており、市場経済への歩みは最も進んでいた。1991年の連邦解体とその後の民族紛争は市場経済移行に困難な条件を与えた。そのなかで、スロヴェニアは例外的に市場経済移行が順調に進んでおり、ハンガリー、ポーランド、チェコと共同歩調をとりながら、ヨーロッパの統合のプロセスに加わろうと努力している。他方、セルビアは民族紛争と国連制裁の後遺症に悩み、市場経済移行は進んでいない。なお、この問題については、本年7月にベオグラードで開催される国際シンポジウム「中東欧における移行」に提出するために論文 "Yugoslavia before and after the Breakup : with Comparison of Serbia and Slovenia" を執筆中である。
|