本研究は、1990年代の生産拠点の海外移転によって地域産業構造がどのように変動し、その下で労働市場がいかに再編されているか、その実態を解明しようとするもので、今年度は東北地方の電機産業の分析を中心にした。 東北地方には、1980年代に組み立て作業を中心とした電機産業の工場立地が進み、大企業から下請け企業に至る重層的生産構造が形成されるとともに、電機産業が製造業の従業者数、出荷額ともに約3割を占めるような産業構造ができあがった。しかし、90年代に入って電機産業が急速なアジアシフトを進めるなかで、東北地方の電機産業は事業所数、従業者数、出荷額などがかなりの減少を示すようになり、地域経済全体に影響が及んでいる。 このようななかで、電機メーカーは東北地方での生産体制を見直し、生産品を変化させたり、工場の統合・再編や合理化などを行うとともに、外注政策を変化させており、それが下請け中小企業の受注量の減少や取引停止あるいは単価引き下げなどをもたらしている。東北地方の中小企業は、取引、技術、設備など多くの点で親企業に依存しており、基盤が脆弱なため、倒産や工場閉鎖・縮小などか相次いでいる。 こうした経済変動の下で、東北地方では雇用調整が件数、人員ともに増加し、完全失業率も上昇傾向を示している。また、有効求人倍率は1993年に0.79となって1を切り、95年には0.73まで低下した。しかし、全体として雇用情勢は厳しいものの求人は一定数あり、雇用の「空洞化」は直線的には進んでいない。とくに電機産業の求人もかなり出ている。ただ、東北地方の労働集約的な電機産業は基盤を喪失しており、その下での電機産業の雇用は安定したものとはいえない。他方、電機産業就業者が減少するなかでサービス産業の就業者は増加はしているが、電機産業の「雇用喪失」を穴埋めするものとなり得ていない。ここに今日の雇用問題がある。
|