本研究は、1990年代に進んだ生産の海外移転が地域経済、地域産業にどのように影響し、その下で地域の雇用構造がいかに再編されたのか、その実態を解明しようとするもので、昨年度は「空洞化」現象が著しい南東北地域を中心に調査を行ったが、今年度は、新たな工業立地がみられる岩手県など北東北地方および機械加工が集積している長野県を対象に調査を実施し、工業統計や求人・求職状況のデータを整理するとともに、各種調査や企業ヒアリングを通じて企業の生産・経営動向の把握につとめた。 こうした調査を通じて、岩手県の工場進出は他地域に比べて相対的に遅く、新鋭工場が多かったため、90年代半ばでも出荷額が増加し続けており、雇用面での影響も限られていることがわかった。しかし、同県の中小企業の基盤は弱く、構造転換によって淘汰も進んでおり、さらに海外移転が進めば「空洞化」が本格化するおそれはある。そうしたなかで、北上市は基盤的技術をもつ中小企業の集積地として安定した発展をみせており、その動向が注目される。一方、長野県は、電機産業の比重がきわめて高いため、出荷額、従業者数の減少、受注などの落ち込みも大きいといえる。しかし、雇用面では、雇用調整も行われているが、反面で製造業の求人も多く、求人倍率は全国に比べてかなり高い。これは新規の工場立地が進むとともに、板城町周辺や諏訪・岡谷地域・伊那地域など基盤的技術をもつ中小企業が集積している地域が多く、これらの企業では受注・生産が比較的順調であるためと考えられる。雇用面でもこれら地域は人手不足現象を示しており、「空洞化」の影響は限られているといえる。しかし、ここでも受注量は増加しても、単価の低下や小ロット化などのため、利益が出にくい状況が生まれており、こうした点で生産基盤の弱体化をもたらす「空洞化」の影響が現れているとみることができる。
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