本研究は、西側(政府・民間企業・国際機関)による対ロシア経済支援や資本・貿易関係の分析をつうじて移行期ロシア経済のマクロ的特質を明らかにしようとするものである。マクロデータから見るかぎり、ロシア経済は体制転換後6年目にしてはじめて生産のマイナス成長に終止符が打たれた。すなわち、1997年にGDPや工業生産がわずかではあるがプラスに転じたのである。とはいえ、ロシア経済には依然として不安定要因が少なくなく、1年間のみの実績をもってロシア経済が完全にボトムを打ったとする楽観的評価には賛成することはできない。ロシアがかかる事態にある主要な原因の一つは、G7・IMF・世銀等による「援助」を見返りとした総需要抑制と資本・貿易自由化のロシア経済への強制にある。西側による対ロシア支援の「哲学」はマネタリスト的市場主義に立脚するものであり、それはインフレ率、通貨供給量、国家予算の赤字規模等の指標が一定の範囲内に収まることを支援継続の条件(コンディショナリティ)とする。そこでは、政府の主たる機能はマネタリーコントロールを通じたマクロ政策の実行にあり、現在のロシアにおいて最も必要とされている経済構造改革などリアルエコノミーへの介入は基本的に排除される。総需要抑制策の継続の下では、国内・外からの投資は実物へと向わない。ロシア経済の後退を食い止める有効な支援は、短期的な通貨・財政面の安定化のみを追求する、マネタリズムからの転換が前提とされる。
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