本研究は、ロシアの移行経済の特質がいかなる国際的条件のもとで形成されてきているのかを、西側の国際機関・政府・企業等による対ロシア支援や資本・貿易関係の分析をつうじて明らかにすることを課題としている。 昨年までの2年間の研究経過のなかで明らかになったことは、次の3点であった。すなわち、第1に、西側による対ロシア支援の枠組はIMFが作り、それに主導された経済支援は、援助の見返り条件(コンディショナリティ)としてロシアに経済自由化路線と厳しい緊縮政策の実行を求めるものであったということ。第2に、その結果ロシア経済は表面的にはマクロ安定化に成功したものの、その成果が生産力の拡大に結びつかず、逆に未曾有の生産低下と経済メカニズムのマヒ状態を招来することになったということ。第3に、かかる混乱の原因は、ロシア経済の実態(移行期における経済的初期条件・経路依存性)を顧慮せずに、短期的なマネタリーコントロールの優先という自己の「哲学」の実践を機械的に強制したIMFの支援のあり方・枠組そのものにあったということ、以上である。 今年度ロシアに起こった通貨・金融危機(98年8月)は、こうした支援の枠組のもとで形成されたロシア「市場経済」の制度的・構造的問題を一挙に露呈させるものであった。有力銀行を中心とする金融資本と民営化された生産資本とが合体した新興財閥、「金融・産業グループ(FIG)」は、国外で調達した短期資金を為替・債券・株で運用し、実物経済とは関係のないバーチャルエコノミーを広範に生み出した。そしてこの現象を増幅させたのが、経済自由化路線によってロシア経済に参入した国際投機筋である。上の危機は、短期外貨資金がいっせいに逃避したことにより、通貨ルーブルや株などが暴落したことこによってもたらされた。 現在のロシア経済に求められているのは、IMFの発想(市場原理主義)と決別し国家主導で産業育成を行うことである。ただしここで重要なのは、かかる経済の国家管理は効率的な市場システムの形成という視点から絶えず見直しを行いつつ進められねばならない、ということである。
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