本研究においては、学部労働市場と内部労働市場の対照的な日本とフランスにおいて、両者の高等教育の制度的な比較と、企業と高等教育機関との人的供給の関係に関して、統計資料、インタビュー、ケーススタディなどをもとにした国際比較研究を行った。フランスにおいては、労働者の教育・訓練の一般性とそれにともなう企業間移動のあり方について、いわゆるブルーカラーとホワイトカラーとの間で大きな違いがあり、また、日本における教育・訓練と昇進のあり方とも異なっていることが明らかになった。 そのうえで、高等教育機関を外部労働市場における人的資源供給の源泉、企業を内部労働市場における人的資源供給の源泉と位置づけたときの、それらの経済成長に果たす両者の貢献に関する実証的研究を、これまでの伝統的な経済理論による説明を整理しつつ、日本とフランスのように顕著に異なった特徴をもつ労働市場を共通に説明できる要因を整理検討した。とりわけ、フランスにおける「社会職業カテゴリー」という日本にはない統計概念については、それを用いた多くの統計的研究と比較可能な日本の統計データを用意しながら、企業と高等教育それぞれのマクロ的な人的資源形成に果たす役割を検証した。 2年間にわたる研究プロジェクトから得られた当面の結論としては、日仏両国における労働市場における人的資源形成の観察事実は、教育制度、技能形成制度、企業の組織構造、労使関係、社会保障システムなどが複合的有機的に結びついており、個人のミクロ的行動の合理性によって説明できる部分は少なくないこと、しかし、それを制約する経済的社会的条件が大きく異なるために両国での異なった観察事実をもたらしていることである。本研究のような国際比較からのアプローチは、データの入手や比較可能な分析枠組などの課題はあるものの、今後の日本における人材育成のあり方を検討する上で有効であり今後さらに分析・検証を続ける必要がある。
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