本研究の目的はODA事業における当初の政策意図、実施の経過、地元社会へのインパクトの三者をつないで日本の対フィリピンODA事業の総合評価を試みることにある。 本年度は主として本研究の基礎的作業にあたった。すでに入手済みの関係資料(主として英語とタガログ語)の整理・抄訳、その他の和文資料の整理から作業を開始し、整理完了分から項目分類・データベース入力を行なった。多くの事業をできるだけ網羅的に取り上げ、データベース化していくために、具体的には「ロドリゲス文書」をまず用いた。同文書はマルコス政権時代後期の1977〜86年に実施された円借款54事業にかんして、フィリピン政府側担当者であった元円借款事業執行官ロドリゲスが作成した約1400ページの重要資料(共編書『日本・フィリピン政治経済関係資料集』参照)だからである。 つぎに多くの円借款事業が実施されてきた南部タガログ地方で展開中のカラバルソン計画関連の資料・データの整理に着手した(現在も継続中)。同計画関連のODA事業は1980年前後からのものも含まれるが、多数は現在進行中である。しかも完了した事業のフォローアップ事業の存在や、過去の事業のインパクトが積み上げられて現状を規定しているなど、諸事業の間は複雑な相互関連性で結ばれていることが、この作業から判明してきた。 この間、4月にハワイ・ホノルルで開かれた国際フィリピン学研究大会での研究成果中間報告、12月に本研究の理論的側面の整理を共編著書『ポスト冷戦とアジア』として公刊、さらには近刊共著書『国家を超える視角』への関連論文執筆(現在校正中)など、研究成果の公開にも努めてきた。次年度以降も当初の計画通りに作業を進め、ODAにかんする政策提案の基礎的情報として本研究をまとめていく予定である。
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