当研究の第1の課題は、インド経済の持続的経済成長軌道への移行に重要な1996-97年度と1997-98年度の経済政策を、中央・州政府の公共投資を中心とする政策調和という視点から分析し、両政府財政の役割と成果を評価することである。第2の課題は、中央政府の消費税と州政府の売上税の付加価値税への移行過程を、両政府の税制調和という視点から検討し、特徴、問題点と財政、経済効果を、とくに先進州のマハラシュトラ州を事例として、評価することである。そこで、インドでは、第11回下院議員選挙の結果、1996年6月に統一戦線を母体とする連立政権のデベ・ゴウダ政権が成立した。この政権の1996-97年度の経済・財政政策の分析により、以下のことが明らかになった。 (1)ゴウダ政権は、前ラオ政権の経済成長政策を継承したが、州政府への分権化を枠組みとして、年7%以上の経済成長率の維持を目標に、財政赤字削減、インフラ投資増加と雇用・貧困軽減を優先課題とした。支出政策では、農業開発と社会部門の支出増加が見られるが、インフラ部門公共投資の増加は見られない。租税政策では、消費税の付加価値税への移行を目指す織物部門へ修正付加価値税が拡張されたが、無税法人への最小代替税導入など改革の継続よりも増収を優先した改正となった。財政赤字削減は、削減策が限界に達しており、中長期的には計画経済体制を支えてきた行財政の構造改革が必須の課題になった。 (2)州政府の経済・財政改革では、州政府と州公企業の財政赤字削減に大きな進展は見られない。また、州政府の売上税の付加価値税への移行では、マハラシュトラ州・タミルナド州とアンドラプラデシュ州・ケララ州では、異なるタイプの付加価値税が導入され、その他の州では導入が遅れている。 (3)財政委員会勧告による中央・州政府間財源配分の変更などを含む州政府レベルでの経済・財政改革の分析が、当研究の平成9年度の課題となった。
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