ドイツ第2帝政期の社会保障政策の歴史的な特質を明らかにすることが本研究の課題であった。これを果たすために、「エルバ-フェルト制度」の実態を解明することが中心的な作業となった。社会保障政策は社会保険と公的扶助を2大支柱としているが、公的扶助は救貧制度はから歴史的に発展してきたものであり、エルバ-フェルト制度は、うえの時期のドイツにおける代表的な救貧制度だったからである。本研究によって明かとなったのは、以下の諸点である。 (1)1853年に制度が実施されはじめて以降、第1次世界大戦にいたる時期にこの制度は成功裡に運営された。というのは、この制度によって救済された貧困者数や、そのための財政支出は低い水準に抑えられたからである。 (2)制度の「成功」には、それを支えたいくつかの要因が考えられる。その1つは、市民の積極的な参加である。制度の運営を担う名誉職に市民の多くが携わったし、制度を補助するような施設や活動も市民によってなされたからである。また、救済される貧困者数が限定されたことについては、一方において、この地方の経済発展が、地方では、他の扶助制度、とくに社会保険制度の発展が寄与するところ少なくなかった。 (3)こうした制度の展開のなかで、貧困者といっても、そこには、労働能力を持ちながら失業や疾病などによって一時的に貧困化した層や、高齢などの理由から労働不能でそのために貧困化した人々、といった、いくつかの類型があることも明らかとなった。社会保障制度の発展は、こうした人々にそれぞれの制度を用意することになろう。 以上を主な点とする本研究の成果は、「エルバ-フェルト制度の展開」として、『経済学研究』に発表されつつある。
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