本研究の目的の1つは、世紀転換期のアメリカのM&Aの波の高まりによって生み出された現代的企業システムとそれ以前の近代的企業システムの相違を、とくに技術のパラダイム転換が、労使関係だけでなく広い意味での企業における人間と人間の関係をどのように変革したかに焦点が当て明確にすることであった。この目的を達成するために、第一に、M&Aによって出現した現代企業におけるトップマネージメント層がどのように形成され、どのように変化していったのかを、39社の30年間にわたる取締役および社長等の最高経営者の出自、経歴を検討することによって明らかにした。ついで、ミドルマネジメントをふくむいわゆるホワイトカラー層がどのように形成されたかをケーススタディーによって明らかにした。第三に、いわゆるブルーカラー労働者が半熟連労働者(オペレーター)を中心に階層組織に編成され、福利厚生手段によって企業内に包摂されていく過程を明らかにした。これらの分析を通じて、M&Aが近代社会から現代社会への移行を媒介したことを明らかにできた。 この研究のもう一つの目的は、1980年代以降現在も進展中のM&Aの波の高まりが現代企業とは異なったシステムをもつ新しいタイプの企業を生み出すかもしれないという想定(仮説)を検証することであった。この点については膨大な個別ケースの収集に時間を費やし、ようやくデータベースの構築を完了する見通しがたったという段階である。そこでとりあえず、80年代以降の趨勢を確認し、いくつかの産業について動向をサーベイしてみた。その結果、情報化の進展と世界市場の成立という新たな条件の中で、多くの産業で新しいタイプの世界企業の出現が観察された。このM&Aの波が現代からポストモダンへの移行を媒介するのか、それはどのような方向でなのかという点の解明は、データの詳細な分析を必要とする。
|