本研究では、両大戦間期日本蚕糸業の発展構造を把握するための基礎作業を行った。基礎作業に取組んだのは、構造的把握のベ一スとなるデータ蓄積が不十分なためであった。 第一に、最も重要なデータである製糸経営一次資料の収集・分析が進んでいないという現状を踏まえ、特徴ある様々な地域・レベルの個別経営資料の収集と分析を進めることを課題とした。本研究期間には郡是製糸資料の収集に特に力を入れたが、同社資料調査を中軸としたのは、同社『百年史』編纂室が本研究趣旨を理解し、社史編纂事業として各部課・各分工場から集めた大量の資料群に自由にアクセスすることを認められたためである。この結果、未発見資料を含む大量の経営資料撮影に成功した。現在分析を進めているが、同社が他の優等糸製糸経営と異なり、強い規模拡大志向を示した理由、およびそれが可能となった条件を解明し、ひいては優等糸、普通糸という生産糸質に基づく従来の経営類型に拡大志向の強弱という軸を加えた新たな類型論構築に役立つであろう。中小規模経営についてはまとまった新資料の発掘はできなかったが、既収集資料(茨城県真壁町谷口武一家所蔵製糸関係資料)の検討を進めた。 第二に、生糸売込問屋関係資料の収集・分析がほとんどない点を踏まえ、特に震災後、急成長した神戸生糸市場の売込問屋関係資料の発掘を試みた。しかし、同市場関係資料は散逸が著しく、新資料群の発見は出来なかった。今後は神戸に出荷した製糸経営側資料から間接的に神戸市場における売込問屋活動を分析するしかあるまい。 第三の問題は、両大戦間期における蚕糸政策の変化が蚕業関係者に与えた影響の解明が遅れていることであり、本研究では茨城県を事例として県蚕糸課と蚕業関係団体が連繋して行った政策・指導の内容と成果を追跡し、府県レベルでの政策実態の解明を進めた。
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