本研究の目的は、社会的選択論の観点から合理的な社会的な意思決定の可能性を検討し、それとの比較において政策決定等現実の種々の社会的意思決定がどのように評価できるかを明らかにすることにあるが、本年度の研究では主として次の点を中心に検討を進めた: 1.社会的選択論および公共選択論に関する議論の展望・整理 本年度は、社会的選択論については昨年度に続き本研究にとって特に問題になると考えられる選択対象の制限(domain restriction)、評価の際の評価方法・水準の制限(value restriction)が合理的社会的選択について持っているインプリケーションに留意しながら、同社会的選択の可能性について議論の一層の整理を試み、対象の数、対象の評価のあり方等が社会的意思決定の整合性にどのような影響を及ぼすかをさらに検討した。 また公共選択論の近年の議論の多様な展開については、実際の種々の政策(的)決定との対比において各議論がどのように位置づけられるかの観点から、幾つかの議論を展望・整理した。 2.公共財供給機構の検討・解明 政府の経済活動は基本的に公共財の供給として捉えることができ、公共財供給の決定メカニズムの1つとしてNash均衡の考え方があるが、同均衡における公共財供給の決定に関して、第1に「人口の増加とともに公共財財源の提供者の割合がゼロに近づく」等というAndreoniの議論を数値解析等も用いて詳細に検討し、それが非競合性という公共財の性質そのものに由来すること、しかし例えばAndreoniが言う「慈善」に関して同主張のように解釈するのが唯一の方法でないこと、第2に同均衡の所得分配からの独立性を言うWarrの定理を詳細に再検討し、同定理を拡張する形で同均衡が所得分配したがって構成員の選好にどのように依存するか等を明らかにした。前者は『大阪大学経済学』第47巻2・3・4合併号に発表し、後者はDiscussion Paperとして発表の予定である。
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