本研究の目的は、社会的選択論の観点から合理的な社会的意思決定の可能性を検討し、それとの比較において政策決定等現実の種々の社会的意思決定がどのように評価できるかを明らかにすることであった。これを社会的選択論および公共選択論双方の視点から検討し、次のような結果を得た 1. 社会的選択論に関する議論の展望・整理・拡張 a) 社会的選択論の観点で合理的な社会的選択の可能性を検討するためには、Arrow以来の議論を顧慮すると、選択対象の限定、評価の際の評価方法・水準の制限の含意の解明が最も重要と考えられる。本研究では、対象の数、対象の評価のあり方等が社会的意思決定の整合性にどのような影響を及ぼすかについて議論の一層の整理・検討し展開を試みた。 b) この1つの展開として、社会的には総所得および分配の不平等度が問題で、各人が各々の公平性-不平等度評価の基準を持っているとすると、公共財が存在する場合を含めて合理的な社会的選択が可能であるとの結果を明らかにした。 2. 公共選択論に関する議論の展望・整理・拡張 公共選択論は未だ十分な体系化がなされていないと言えるが、それらの議論を広く展望し、同理論の理論構造、分析の方法、および分析の対象の観点から整理し、その体系化を図りまたそれによって実際の種々の政策的決定が体系的に評価可能であるために、議論のどのような整理、精緻化が必要であるかを考えた。 3. 公共財供給機構の検討・解明 政府の基本的な経済活動である公共財供給・公共投資に関し、公共財の私的供給、Arrow-Kurz(1969)以来必ずしも十分解明されていない公共投資基準の問題について、前者についてはNash均衡の構造のより詳細な解明、後者については同基準が税等の歪みがある場合でも最善(first-best)の場合のそれと同じであることを明確にした。 以上の成果は何れも大学紀要およびDiscussion Paperの形で発表している。
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