研究概要 |
国の財政は、1つの中央政府と多数の地方政府の相互依存的関係として記述される。複綜した中央・地方政府間の財政は,従来,制度的・実証的な研究対象となってきた。しかるに理論的フレイムワークは,いまだ地方公共財の理論に依拠するものがあるだけである。地方交付税や補助金の在り方が本質的に理論の中に取り入れられていないのである。これらを説明しうる理論的モデルを開発することが研究目的である。 本年度は,基本的な書物を収集するとともに,試験的なモデル構築を行った。それは,次のような設定である。(i)政府間の財源の移動がある種の功利主義的な目標の最大化の手段であると想定する。(ii)各地域には単純化された生産が想定され,地方税と国税が課される。これらの下で,税制度を一定とするとき,功利主義的な目標に応じて,国税の地方への再配分システムが決定される,というモデルである。ここでは各地方と中央政府の財政の相互依存関係が明瞭に考察されている。また,(i)に関わる功利的価値判断では,財政のデータを利用することによって,「中央政府が各地方政府の相対的重要度をどのように考慮しているか」を判定できるという利点もある。 このモデルの応用例として,阪神大震災の引き起こした被害にたいしてどの程度の財源の再配分をすべきであるかを試算した。これによって,もし被害額の推定(約10兆円)が正しく,現状の財源配分の在り方が災害時にも適応できるものであれば,被災地への支援額はほぼ妥当な額であることが得られた。また,中央政府が想定している各地方の相対的重要度はほぼ同一であることが判明した。
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