研究概要 |
本年度は,構築されたデータベースを使って,転換行動について本格的な計量分析を行なうとともに,転換主体が誰であるかを識別しようと試みた。具体的には,流動性を提供する証券会社,マーケット・インパクトを嫌う大口投資家や証券会社,転換という迂回的方法で投票権としての株式を確保したい主体,権利行使による希薄化を嫌う投資家といった,4つのケースを念頭において計量分析を行なった。転換量についてのTOBIT分析では,証券会社在庫管理説,およびマーケットインパクト回避説とほぼ矛盾しない結果を得た。また,サンプル分割したLOGIT分析により,売買高が多く転換社債価格もパリティを上回る転換開始時と,売買高が少なく転換社債価格がパリティ前後である転換進捗時とでは,上記ケースの蓋然性が異なるという結果を得た。 また,算出に利用するモデルは異なるものの,計算される転換社債「理論価格」に比べて現実価格は低すぎるという傾向が指摘されてきた。そこで,無リスク裁定機会が見られるかどうかを検出し,特定のモデルに依存しない形で転換社債および株式市場のパフォーマンス評価を行なった。その結果,売買委託手数料や有価証券取引税を考慮した上でも,無リスク裁定機会と思われるケースが存在し,それらはバブル期後半から最近までまんべんなく分布していることがわかった。ただし,これら裁定機会から利益を得るためには,当初証拠金や株価が一時的にせよ意図と反対に動いたときに必要となる追加証拠金など,株式をショート(空売り)するためのコストおよびそのリスクを負担しなければならず,完全に「無リスク」の「裁定機会」があったとは言い切れない。追加証拠金という仕組みが完全な無リスク裁定を不可能にしていることを十分考慮して,再評価を行なうことが今後に残された課題である。
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