研究概要 |
本研究は,高齢化社会における費用・負担のあり方とそこにおける老人資産活用の位置づけについて分析を加えた。高齢化の進行に伴い問題となるのは社会保障費である。これは,年金,医療,福祉の三分野に分類でき,それぞれが大きな課題を抱えている。というのは,高齢化が進むにつれ,年金受給者,多額の医療費がかかる高齢者(特に後期高齢者),要介護の老人,が増加するからである。もちろん社会保障費の増大そのものは問題ではない。しかし,それが国民が負担してもよいと考える水準を越えるとなれば問題は別である。これに応えるためには,まず現在の社会保障の構造そのものを望ましいものに変えなければならない。無駄・非効率なものの排除である。これが第一である。その後,更に費用高騰圧力が避けられないとすれば道は三つしかない。給付水準を引き下げるか(受益者負担の引き上げ),保険料を引き上げるか,投入する税を増大させるか,の三つである。年金,医療,福祉と分かれた現行制度の構造自体を見直すだけでも大きな社会的摩擦が予想される。したがって,早急に構造改革を行いながら,給付水準の引き下げにより適切な給付水準へのコンセンサスを形成し,また,その財源として,社会保険料か税への依存を求めていく,これが現実的な対応であると考えられる。その際,老人資産の活用については,それが可能な個人とそうでない個人との格差が大きいと考えられるので,まずは適切な公的社会保障水準の確保を第一とし,その後それを上回るサービスを得るものとして,または,利用可能な選択肢の一つとして位置づけられるべきものであるように思われる。
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