本研究は、企業の技術革新が直接投資をとおした海外事業活動に与える影響について理論的・実証的研究の深化を試みたものである。技術革新を基礎とした競争優位性が海外直接投資の要因であることが先行研究によって明らかになっているが、本研究では、企業母国(日本)の技術革新の段階(テクノロジー・サイクル)によって進出のパターンが異なることなどの新たな仮説を導入するとともに、実証的知見を得ることを目的とした。 第1章で示すように、日本企業仮の米国に対する直接投資の決定要因として、技術革新が最も重要な要因として確定することができた。しかし、日本本国における技術変化が激しい時には、直接投資を通して海外市場に展開を図るよりも、国内における研究開発・生産を集中し、海外市場は輸出で対応することが新たな知見として得られた。また、第2章で示すように、海外進出に関して1960-70年代の日本企業と似た状況に現在あると思われる韓国企業の海外直接投資の決定要因を統計的に分析してみると、その海外直接投資行動は非常に軟弱な技術基盤に基づいていることがわかった。現在の韓国で海外投資の盛んな産業は、韓国における比較優位を失いつつある産業であり、海外立地に比較的優位を求めて直接投資を行っていると思われる。この状況は1960-1970年代の日本の直接投資に酷似している。これらの知見を併せて考えると、日本企業の現在の直接投資を通した海外進出は増大は、1960-70年代の日本企業による技術革新の拡大、技術フォロア-から技術リーダーへの変革(Evolution)によるものであり、その中心となる産業構成も、比較的優位型産業からハイ・テク中心の競争優位型産業へと大きく変貌したことが理解できる。この事から、企業の海外投資行動を径時・クロスセクション的に理解するにはEvolutionaryな視点が必要となってくる。
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