ドイツの企業間関係の日本のそれとの類似点はしばしば研究者により指摘され、またこれが両国の産業競争力の共通要因として国際的に理解されている。本研究の目的はむしろ日独の企業間関係の違いに焦点をあて、これが企業統治の有効性にいかなる影響を与えるかを明確にすることにある。日本との相違点の第一は最大銀行であるドイツ銀行がその突出した規模と経営成果によりドイツにおける企業間関係の形成に決定的な役割を果たしていることである。第二に、この企業間関係はほぼ全ての業種を網羅する代表的企業および優れた中小企業との間に緊密に結ばれている点で日本の企業間関係と大きく異なる。第三に、ドイツ銀行は寄託議決権の行使により株主利益代表者として、友好企業の監査役会への会長派遣により監視代理人として、新株引受および売買によりリスク負担者と資本調達者として、最後に株式保有による残余請求権者として、日本のメインバンクを大きく上回る機能を果たしている点が大きな特徴である。その他の主力銀行の機能は日本のメインバンクのそれと同じであり、これらは金融仲介、経営破綻企業の救済、吸収・合併・企業間関係の調整、経営に関する助言、情報仲介である。 このようにドイツ銀行は友好企業の企業統治において中心的役割を演じる誘因を有しているが、その企業統治に対する有効性は低い。その第一の原因はドイツ銀行と友好企業との間の相互依存的関係である。ドイツ銀行にとって企業間関係維持の最大の目的は取引規模の拡大、維持であり、したがって経営者に対して規律付けの意欲を欠く。第二の原因はドイツ銀行自身の株主総会において出席議決権の過半数を得るためには他の銀行の協力を得ねばならず、また他の銀行も同様に自行の株主総会においてドイツ銀行の協力を得ねばならない立場にある。最大の議決権を有する銀行がこのように相互依存関係にあるため、ドイツ大企業の株主総会において経営者の規律付けはほとんど働かない。さらに、少ない監査役会の開催頻度、執行役会と監査役会の情報非対称性と役割倒置、執行役会会長の機会主義的行動と情報抑留行動なども企業統治の有効性を低下させている。結論として、日独に制度的違いはあるが、結果的にドイツにおける企業間関係は企業統治の有効性を高めるよりは、むしろこれを低めていると言える。
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