研究概要 |
平成八年度は、日本の自動車部品サプライヤーとアッセンブラ-間の取引関係に関するデータベースの構築と分析,および理論構築のための企業聞き取り調査を実施した。研究実績としては,次の二点がある。第一に,自動車部品サプライヤーの顧客ネットワーク戦略が,企業成果へ及ぼす影響を分析した。この分析では,系列的な関係ではなく広範(オープン)な顧客ネットワークを効果的に管理することによる「顧客範囲の経済性」を活用した戦略が,サプライヤーの企業成果へ貢献することが検証できた。既存研究は自動車メーカーとサプライヤーの協調的な関係がサプライヤーの企業成果へも貢献することを明かにしてきた。しかし,本研究では,個別の企業間関係のあり方ではなく,顧客ネットワーク戦略に焦点を当て,企業成果との関係を導きだした。 第二に,アッセンブラ-から見たサプライヤーネットワークのあり方と企業成果について分析した。特定部品の購入において特定サプライヤーへの集中度を低下させ,加えて競合自動車メーカーの間で部品サプライヤーを共有している自動車メーカーの収益性が優れる傾向があることが明らかになった。このような広範(オープン)なネットワークを利用した購買政策を「準マーケット」戦略と呼び,その戦略が自動車メーカーにとってメリットがあるとする議論である。 したがって,より広い部品取引ネットワークを築きながら,同時に,既存研究で示されたように企業間の協調関係を構築することが,サプライヤーと自動車企業の双方にとって重要であるとする結論である。自動車産業においても,産業レベルの部品の共通化は主要なテーマである。本研究は顧客範囲の経済と協調的取引関係の双方を同時に取り入れた戦略の重要性を提言した。
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