平成8年度は先行研究の調査と理論仮説の形成に取り組み、以下のような成果を得た。 1910年代後半から1930年代にかけての従業員代表制についての同時代の観察者の分析・評価の見直し:当時の有力な経営者団体(NICB、NAM、AMA)、労働組合(AFL)による調査や声明、そして有力な労使関係研究者の業績を見直し、「参加・コミュニケーション型従業員代表制」の輪郭より鮮明にするとともに、General Electric社の従業員代表制(Works Council)の位置を確定した。 平成9年度は、対象をGeneral Electric社のSchenectady事業所に限定して、ミクロ的な観察に基づく、実証的な研究を行い、「参加・コミュニケーション型従業員代表制」の組織構造と機能を解明した。以下がその概要である。 (1)General Electric社における従業員代表制Works Councilの形成にあたって、第一次大戦期までの工場の管理者側と実質的な団体交渉を行っていた、労働組合の存在がかなり大きな影響を与えた。特に、この組合の実質的な反対によって頓挫した最初の従業員代表制Industrial Representationの経験(1992年)がWorks Councilの構造に決定的な影響を及ぼした。 (2)1924年に形成されたWorks Councilは、変則的な合同協議会型従業員代表制で、その最大の特徴は、きわめてシンプルな組織構造、職場における個々の従業員の苦情やローカルな問題の処理をWorks Councilにおける事業所全体の共通問題の協議と分離したこと、従業員代表たるWorks Councilmenの職場活動を公認し、Foremenとの関係を明確にしたことなどであった。 (3)Works Councilmenの定例会議における協議は、(1)従業員の雇用と配置などに関する問題、(2)職務と報酬に関する問題、(3)従業員の金銭的福利厚生制度の改正や受給者の範囲や受給の条件などの付加給付に関する問題、(4)その他の福利厚生や環境に関する問題、など従業員の雇用と仕事にかかわる問題を広く網羅していた。 (4)Works Councilmenは当初より、職場における事実上のショップ・スチュワードとして活動し、職場における上下両方向の情報の流れを媒介し、また、特に一般従業員と第一線監督者との間の利害調整に大きな役割を果たした。 (5)こうしたWorks Councilmenの活動の結果、事業所内のコミュニケーションは活発化し、労使双方の相手方に対する理解が深まり、事業所コミュニティーの一体感を醸成した。加えて、Works Councilの協議を通じて、雇用や賃金などにかかわる暗黙の慣行の多くが明示的なルールに転化し、こうした慣行の適用を巡るトラブルを減少させた。さらに、Works Councilmenの職場活動の公式化は、Foremanの権限を限定し、職場の労使関係の近代化に貢献した。
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