韓国における意思決定を一言で言えば、権威を背景とした個人的意思決定であると言える。韓国の組織も日本と同様、アメリカにおけるような職務主義が確立していて、職務記述書に基づいて個人的に仕事を執行しているとは思われないが、さりとて日本と全く同じように「集団的職務編成」 (岩田龍子『日本的編成原理』文眞堂、昭和55年7月第7刷)の下で、いわゆる集団的に仕事を執行しているとも思われない。従って、日本の組織におけるような稟議的意思決定とも異なっているように思われる。すなわち、日本の組織においては、相対的に地位の低い者(ミドルマネジメント)が企画立案するため、どのようなことを企画しても他の部署、他の同僚の職域、権限に抵触することになる。従って、前もってその企画内容について関係する部署、同僚の了解を得ておく必要が生じる。その了解が得られてはじめて稟議書を「起案」し、あらかじめ了解を得た部署の了解の証として押印をしてもらい(「回議」または「合議」)、最終的にトップの承認(「決裁」)を得て実行に移されるのである。韓国の組織における意思決定は、これとは大いに趣を異にしているように思われる。すなわち、インタビューデータや経過及び起案文書で見たように、実質的に計画を立案し推進した人物がミドルマネジメントで、起案することはあっても、実際に他の部署へ「協力」を依頼したり、「根回し」をすることはほとんどないように思われる。むしろトップや上位者と自分との間に強力な結びつき、「忠誠一庇護」関係を形成し、その支援や協力を背景に、上位者の権限を通して企画立案の実現を企図しているように思われる。組織の相対的に低い地位にあるミドルマネジメントが、企画立案するということは日本と同様であるが、その実現の仕方は大いに異なっていると言える。
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