組織における意思決定は、その国の文化、組織風土とと密接に結合している。アメリカの組織も日本のそれも、構造的には官僚制的な位階制組織という点で共通しているが、そこにおける実際の運営、特に意思決定の実態は大いに異なっている。本研究は、韓国江原道江陵市における安木港建設を巡る意思決定過程を事例として、韓国の組織風土とそこにおける意思決定の特徴を把握しようとするものである。 直接意思決定にかかわった市の職員、水産係長H氏に対するインタビュー調査から、次のような示唆を得た。すなわち、 1) 韓国の自治体における意思決定においても、相対的に低い地位の者が計画立案するという点では、日本の稟議的意思決定のそれと類似している面がある。しかし、計画の実行それ自体は、起案用紙の発信者(トップ)から受信者(実行者)に対する命令、指示によってなされていた。計画立案者は、計画の実行者、遂行者というよりは、トップのスタッフ的な役割を果たしていたと言える。 2) 韓国にも日本の稟議書によく似た「起案用紙」がある。計画を立案した人間や発信者(トップ)、受信者がが押印したり、サインしたりする点では日本の稟議書に類似しているが、「合議」や「回議」ましてや「根回し」が行われた形跡はなかった。 3) 日本よりもむしろアメリカににていると思われるこの意思決定は、特定の上司と緊密な関係を持った者が、上司の権威、権限を介して意思決定し、実行させているように思われる。スタッフ的機能を果たしているという所以である。 4) 仕事は同僚と協力して行うというより、上司と結びついて個人的に行うという傾向が伺えた。韓国人が組織よりも個人に忠誠を誓うとされる所以である。
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