本年度は、租税特別措置の実証研究を中心に実施した。 まず、鉄鋼産業(日本鋼管、川崎製鉄etc)、自動車産業(トヨタ、日産、本田ect)、繊維産業(富士紡、日清紡etc)、コンピュータ産業(日本電気、富士通etc)を訪問し、インタビューをし、資料収集を行った。内容は租税特別措置の利用実態、設備投資に税制の優遇措置が及ぼした影響、企業家精神が設備投資にどのくらい影響があったかについての質問であった。結果として、産業の特質、企業家精神等が租税特別措置の利用に大きく影響しているといえる。 また税制調査会の資料、有価証券報告書の一次資料、大蔵省告示の一次資料、国会会議録等の一次資料により、租税特別措置の設立したいきさつ、内容、利用状況等について整理分析をした。各産業ごとに特別償却は対象機械設備が指定されていた。また、特別償却の利用度も産業ないしは企業によってかなり異なっていることがわかった。なかでも鉄鋼産業が一番利用度が高かった。 とくに有価証券報告書については、鉄鋼産業6社、自動車産業10社、繊維産業10社、コンピュータ産業6社の各社30期分、延べ960期のデータを収集し、これに基づいて減価償却資産の増加額を従属変数、租税特別措置である特別償却を説明変数とした単回帰分析をほどこした。 結果としてコンピュータ産業、自動車産業においての特別償却が減価償却資産の増加額に対しての効果に有意性が高く見られた。この結果については、平成8年9月 日本経営学会第70回全国大会(於一橋大学)、平成9年3月 日本工業経営学会関東部会(於明治大学)、平成9年3月慶應義塾大学第6回大会で発表を行ってきた。第二次世界大戦後の二十年間についてはデータ収集がしにくいためか従来実証分析した論文は少なかった。わが国の産業政策の目的が特定産業の成長にある以上、成長という視点から特別償却の効果について検討した意義はあったと考える。
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